第一話『バニシングクリムゾン』

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 いつもなら“その制服なんとかならないのか”とか言いそうなのに変な奴。 「顔赤いけど体調でも悪いのかい?」  少しばかり優しい言葉で気にかけてみる。  今思えばラクセリアと話してた時、随分素に近い口調だったな。気をつけなければ。  などと考えていると、 「な、何でもない。さ、嵯峨こそどうしたんだ。急に……ゴニョゴニョ」  最後の語尾は聞こえなかったが、何となく気恥ずかそうにしているので触れないでおくことにした。 「昨日はありがとう。それじゃ!」  シュタ! とキレ良く敬礼のまね事のように構え、颯爽とその場を立ち去ろうとしたその時、 「嵯峨!」  俺を呼び止めたのは紛れも無い美琴だった。 「な、何だい?」 「……隠していてもわかる。体に刻まれた経験はどんなに取り繕うとしてもごまかせない。隙の……」  美琴が何を言おうとしているのか直ぐに察し、 「い、急いでるから!」  俺は逃げた。  まさか美琴に眼力があるとは思わなかった。  それより何より、普段の生活の中でしている些細な行動で“嗅ぎ当て”られるとは……  俺としては迂闊だった。  教室についた俺は早々に疲れた(別に疲れてはいないがそんな感覚)ので机に突っ伏すと、 「おはよう楓。朝から辛そうだね」  含み笑いを浮かべて話し掛けてくる敬に、 「うらやましいかい? 今すぐ俺と人生取り替えてくれ。きっと退屈しないぞ」 「結構。これでも僕は自分の人生に満足している」 「何だ楓、女の股開く前に悟りを開いたか? 可哀相に」  何故か俺より先に登校していた横臥が哀れみの声をかけてきた。  少なくとも俺はお前に哀れみを受けるいわれは無い。よって、 「うるさい万年童貞、お前のアレは既に棺桶行きだ! 死体とあの世で見せ合いっこでもしてろ」 「そ、そんなああ!」  気味の悪い泣き声をあげながら横臥は自分の席に戻って大泣きを始める。 「意外と出はセンチメンタルなんですよ」  そう言ったのは敬だった。  苦笑いしている敬の顔を見ることなく、俺は窓に目を向ける。  センチメンタルになっていられるだけ幸せだろ。  ストイックやセンチメンタルなんてものは平和な国の人間がなるシックだ。 「私もセンチメンタルになりそうだ。楓、いつになったら私の依頼を果してくれるのかな?」 「わ! 何処から顔をだしてるんですか!」
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