第一話『バニシングクリムゾン』

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 身長一八十センチの長身に黒髪。瞳はブラウン。  典型的な日本人でごく平凡な高校生(仮)の俺。  科学・技術と魔法文明の発達したこの世界では、ごく平凡の人間=魔法に特化していない=優れた部分がない=童貞=残念な子という非公式な公式が存在する。  あくまで長年の無経験(童貞)と持論による出た答えだ。 (仮)と言うのは、あくまでごく平凡な高校生でいたいという希望なだけである。  何故か?  何事も平凡が一番。  無為な欲に駆られることもなく、己の程度に合わせたそこそこの生活だけで幸せを見つけることができる。  そう、平凡であればささやかな幸せでも大きく感じられるのだ。  だから俺は平凡な高校生活を生き《演じ》てみようと思っていた。  しかし、高校入学して早々壁にぶち当たった。  霧島芽衣という存在である。  帰国子女の芽衣は帰国して早々に学園を牛耳る為に、よりによって日本流行り真っ只中の《リコール》を行い、選挙権を有する生徒の大半を買収して生徒会長になってしまった。  俺はそんな芽衣に目をつけられ、平凡平穏な日常に早くも大ピンチを迎えている。  生徒会に入れという強要から発展し《選りすぐりの美人女子生徒を勧誘してこい》なんて。 「おっす楓」  前日の生徒会室の悪夢を払拭するどころか、さらに二乗も三乗も上乗せする奴が背後からやって来る。  横臥出(おうがいずる)  俺のクラスメートであり学園一の女好きだ。 「朝から不愉快な声がするかと思えば横臥か」 「相変わらずお前は俺に対しては冷たい態度だな」 「何が悲しくお前にまで丁寧語を使わなきゃならないんだよ」  そういうと横臥は何故かがははと笑って腕を組み、 「ま、お前が腹割って自分を出して話せるのは俺しかいないからな」  ちなみに、俺が横臥の前で素でいるのは、入学前日にゴロツキに囲まれている横臥を、ハイパー楓状態に変身して助けたからだ。  もちろん同じ学校に入学してるなんて知らなかったからな。後で口止めしたけど。  ハイパー楓状態の俺は、外見は銀髪に鮮血色の瞳に変わり、性格は寡黙。  人生という会場から退場させた人間は数知れず。  まあそんなわけで、今更正体を知っている人間の前で演技する必要はないと考えてるだけであって、決して横臥に心を開いてるわけではない。
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