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隣で俺を見ていた横臥は、
「お前って本当、顔の使い分けが上手いよな」
苦笑いしている。
褒めてるのかけなしているのかわからないが、別に興味はないので、敢えて言葉を返すことなく教室に向かった。
いつも通り騒がしい教室。
魔導学科の隣が一般教養科。
どちらが騒がしいといったら勿論一般教養科だ。
各政財界の令嬢などが集う魔導学科は、どこか気品に満ちあふれている。
俺からすれば吐き気がするくらいに。
まあ平凡な高校生を演じている俺が人のことをとやかく言う権利は無いだろうが。
一般教養科の教室に入るなり、
「おはよう。相変わらず仲がいいようですね」
北郷敬(きたざとけい)がにこやかに
声をかけてくる。
「うぃーっす。登校して早々で悪いが世界史のノート見せてくれよ」
言葉とは裏腹に、悪びれた様子もなく右手を出す横臥。
敬と横臥は幼なじみだが、面白いくらい正反対の二人。
横臥をがき大将とするなら、敬は真面目を絵に描いた優等生。
「またですか。君は入学試験の時のカンニングもそうですが、他力本願過ぎますよ」
さらっととんでもないこと言ってやがる。
「確かに。横臥君はたまには自分で努力するべきだと思うな」
クラスの中なので口調を切り替える俺。もう慣れたのか、横臥はそんな俺に気にすることなく、
「いいんだよ。俺のモットーの一つの努力は《無駄な努力》だから。がはは」
がははと笑って済ませるところじゃないから。ジャソプの創設者に謝れ!
嘆息しながら敬はノートを机から出して横臥に渡す。
「ま、君がノートを借りなくなる日を想像したら逆に恐ろしくて眠れませんが」
確かに。しかしそれは人として何か間違ってると思う。
「だろ? 本来なら美人女子に借りたいところだけどよぉ。がはは」
三回死ね。
俺は阿保な横臥から離れるように席につく。
窓際の一番後ろの空席の前が俺の席である。
わが素晴らしき担任教師の宮田の話によれば、転入生がやってくるらしい。
本日の朝の騒がしい原因の一つらしく、時折男子達の口からは念仏を唱えるように《女子でありますように》と聞こえてくる。
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