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冲「やれやれ。攘夷って言葉も君たちに使われるんじゃ可哀想だよ」
関わるまいとする人の波に逆らって、一人、沖田さんは男たちの前に立つ。
その出で立ちを見て、
浪士たちが一斉に顔を強張らせた。
浪「浅葱色の羽織……新選組か!?」
冲「知っているなら話は早いよね。……どうする?」
唇に三日月を刻むと、
沖田さんがゆっくりと刀の柄に手を伸ばす。
……こういう時の沖田さんは、笑顔だからこそ逆に恐ろしい。
冷や水を浴びせられたような顔をしながらも、浪士の一人が悔しげな声で悪態を吐く。
浪「くそっ、幕府の犬が……!」
藤「…………。いいからとっとと失せろって」
同じ浅葱の隊服を着込んだ藤堂さんが歩み出ると、さすがに不利を悟らざるを得なかった。
浪士たちは今度こそ色を失い、尻尾を巻いて足早に逃げていく。
咲「あの……。私、咲と申します。助けていただいてありがとうございました」
先ほどの女の子が、沖田さんにぺこりと頭を下げた。
所作ひとつ取っても洗練されていて、いかにも女の子らしい仕草だった。
咲「もっときちんとお礼をしたいのですけれど、今は所用がありまして。……ご無礼ご容赦下さいね」
彼女は沖田さんへ一礼して着物の裾を翻す。
咲「このご恩はまたいずれ……新選組の沖田総司さん」
どこか不思議な雰囲気の少女の背が雑踏に紛れて見えなくなる。
藤「おいおい、ありゃ総司に気でもあるんじゃね―の?」
冲「今のがそう見えるんじゃ、平助君は一生、左之さんとかに勝てないよね」
藤「ど、どういう意味だよ!?」
杉「咲さん…か」
藤「杉川―!そろそろ帰ろうぜ―」
杉「あぁ」
俺は、屯所に戻る二人の背を慌てて追いかける。
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