綺麗なバラには刺がある

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* * * * 先程より少し小さめの、しかし五人で座るには充分すぎる広さへの部屋へと案内され、乙姫が静かに襖を閉めた。 そして既に座っている三人へ向き直ると深々と頭を下げた。 「本当に、申し訳ございません。こちらの勝手な争い事であなた方を巻き込んだ挙句、お仲間の紅葉様まで……」 「謝るのは後でいい。紅葉は生きてるだろうしな」 「木暮さんは殺しても死にませんよ」 「簡単に死なないってのは確かだな」 軽い口調だが確かな信頼を感じとった乙姫は、それに安心したように少しだけ顔を緩めた。 「と言っても状況に変わりはないからな。本題に入ってくれ」 「はい」 浅葱が先を促すと、乙姫は目を閉じて話し始めた。 「事の発端は、100年ほど前に遡ります」 「100年!?」 「ええ、竜宮城は今よりも美しい姿をしておりました。皆若く美しい人魚達で賑わい、今よりずっと活気がありました。元来、竜宮城に住まうものは、歳をとらないのです。不死ではありませんが、老衰で死ぬことはありません」 昔を懐かしむように話す乙姫だが、あまりにも信じ難い話に浅葱と大和はぽかんと口を開けている。
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