狂い始め

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「あーあ。退屈だ」 ソファに転がっている男があくび混じりに嘆いている。 この男、言ってしまえば物語の主人公のガル・コーネットだ。 短い黒い髪の隙間から青の瞳がちらりと見える。 幼いようでしっかりとした輪郭だ。 「ちょっとは天文学や暦学を勉強したらどうだ。暇そうだしな」 その嘆きに答えたのはタバコを吹かしている父。 自分がちょっと詳しいから、とすぐにやらせたがる。 親の性質を隠そうとしない。 それにうんざりしてかガルは逃げるように散歩に出た。 外に出ると暖かい光が迎えてくれた。 機嫌を持ち直して歩きながら辺りを見回した。 町の雰囲気は悪くない。 モダンな町風に木造建築、賑やかな市場、おばさんたちの井戸端会議、笑ってる人、泣いてる子供、美人な人、井戸水を汲みに行く貴婦人、老人、 誰もが熱すぎるほど温かかった。 それに合ってお金にこだわらない平和な町で、まだ若いガルにとっては心地よかった。 「おはよう坊主!!」 「また父さんから逃げたのか?」 「暇人だもんなぁ!!」 「またこんどあそんでよガル兄ちゃん!!」 老若男女問わずガルへ会話が繰り広げられていく。 村の人たちだって嫌いじゃない。 嫌いになれるはずがない。 口には出さないがむしろ大好きなぐらいだ。 ……本当に、平和。 誰が想像しただろうか。 この村が消える、と。
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