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一瞬の悪夢。そう言うのがふさわしい。
どれだけ経ったのか……気づくとガルは炭と化した村を走り回っていた。
不思議なことに火は村を燃やし尽くした瞬間に消えていた。
鼻が痛い。
それが臭いでなのか泣きそうだからかはわからない。
朝ののどかな光景が嘘のようだ。
「父さん…っ母さん!!」
喉が裂けそうになるほど必死に叫んだが返ってくる返事は炭が崩れる音だけ。
木造中心の家屋は跡形もなく燃え尽きてしまった。
人の気配なんてもっての他だ。
「頼むよ……」
ガルは膝まづいた。
そして無意識に炭を握ってみる。
ピリピリと痛い。余計に目頭が熱くなる。
「壊滅状態、か…」
ふと後ろから声がした。
先ほどの男が立ち上がってこちらに歩み寄る。
立ち上がって初めてわかるがガルよりも背が高く、黒いコートに身を包んでいる。
近寄ってくる時間は不思議と長く感じた。
先程より出血が止まってきている。
痛々しい傷も今では掠り傷に見える。
そんなことは普通なら異常なのだが今のガルは気づくことができないでいた。
未だに震えが、止まらない。
「まぁいい。準備しろ。とは言っても準備するものもないか……今すぐ」
辺りを見回しながら男は脈絡無く呟いていく。
「なんなんだよお前!!」
マイペースな男に苛立ちが生まれ、気がついたらガルは男の黒い衣服をつかんでいた。
血の生臭い匂いが鼻につく。
「お前が現れたからっ落ちてきたからこんな…」
男はため息をついた。
「八つ当たりか?」
「!!」
確かにそうだ。余りにも理不尽すぎる。
「自分だけ助かるなんて気にくわない。その考えは捨てるんだな」
心を見透かされたガルは男の静かな気迫に気圧されそうになる。
だがガルは負けじと涙目で睨み返しながら精一杯言い返した。
「…っでも!!さっきまで…居たんだ。っ笑って…」
脳裏によぎるのは笑顔。
自分を見守ってくれた優しい笑顔。
もう無い。
ガルの手はいつのまにか男を解放していた。
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