かわらけ

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*【東岸寺住職宅玄関先】 一郎「あのう……すみません。すみません。誰か居ませんかあ」 一郎「おかしいな……玄関のベル押してるのに……留守なのかなぁ」 薫子「おにーたんどったの?」 一郎「うわぁッ!? お、女の子!?」 崇慶「その呼び鈴、壊れとるんよ。築六十年にもなるとダメやねぇ」 一郎「い、いつの間に後ろに……! こ、このお寺の住職さんですか……?」 一郎(なんか異様に綺麗なひとたちだなぁ……モデルみたい……) 崇慶「住職なら認知症にかかってつい先日介護施設に入ったばかりよ。あなた何かしら。参拝にいらしたのなら金堂(こんどう)はあっちやけれど」 一郎「い、いえ……僕、ここの檀家の桃田という者です。両親が長期旅行で不在なので、かわりに奉納金を納めに……」 崇慶「桃田?───ああ、四年間も滞納してるあの桃田さん! 記帳にいつも名前が残ってたわ! よく来たわねぇ、偉いわねぇ」 一郎(な、なんだろうこのひと。ちょっとしゃべり方がアレっぽい……) 薫子「ちょーらいちょーらい!」 一郎「……その手はなんですか?」 崇慶「え? だってお金、納めてくれるんでしょ?」 一郎「今日は納められませんよ。両親が帰ってくるのが半年後なんです。それまで納金を遅らせてもらいたいと思って……」
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