森羅学園

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小さい頃から俺は町中を走り回っていた。 猪突猛進。勇猛果敢。善人。 俺を表現する際、よく挙げられる言葉がそれだ。 俺は好きなように動き回っていた。ただそれだけだ。 それだけで俺は『ヒーロー』と呼ばれるようになっていた。 早朝。 朝起きて二階から居間に降りてみれば、母さんが朝ご飯を作っている最中だった。 母さんは突っ立ってる俺に気づいた。 「おはよう。もう飯出来るから立ってないでさっさと座りな」 「おう」 言われた通り、いつもの場所に座る。 本当にすぐに朝食は出来上がり、俺の目の前に並んでいく。 「いただきます」 母さんもさっさと準備をして、俺の対面に腰をおろして食べはじめた。 「ボーッとしてないでさっさと食べなさい」 「ああ」 言われて俺も箸を持つ。 ご飯を食べていると、母さんは思い出したかのように口を開いた。 「そうそう。父さんは今エジプトにいるらしいわよ」 「本当風みたいな親父だよ。一昨日はアメリカのホワイトハウスの前で記念撮影したとか言ってただろ」 「いいじゃない。自由奔放って感じで。それにそこがあの人の良い所だし」 親父を語る母さんの目はハートになっている。 そう、俺の両親は結婚してから二十年近く経っているが、今だにラブラブなのだ。 親父は旅が好きで常に世界中を旅して回っている。そして一年に数回、特別な日にだけ家に帰ってくるのだ。 例えば、クリスマスや正月。母さんの誕生日と親父自身の誕生日とかに。 自分の誕生日に帰ってくるのは祝って欲しいかららしい。基本寂しがり屋なのだ。 さっきからの説明で分かると思うが、親父は仕事をしていない。母さんも専業主婦だ。 それなのに親父は旅を好きなだけして、さらにはしっかり生活費を家に入れているときた。 なんでそんなことが出来るのかと言えば、一重にパトロンの存在だ。 そう。親父にはパトロンがいる。要するに信者。 どうしてそういうのがいるのかはそのうち話す。 まあ、それとして。 親父と母さん、そして俺。 それが藤家の構成だ。
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