ハツコイ3

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店内はいい感じに薄暗く、BGMもこれまたいい感じで、テーブル席にポツンと取り残された超普段着の俺は、さぞかし浮いていることだろう。 「寺本のやつ。変な気遣いしやがって……」 俺はテーブルに置かれたウォッカのグラスを掴み、一気に飲み干した。 カーッ。喉が焼けるように熱い。ガソリンか、こりゃあ!? 酒の弱い俺がウォッカなんて飲むのは、もちろん初めてだ。 今日はとにかく、酔いたかった。 だって、酔わなきゃよぉ…… 俺は、ガラス壁の向こうにチラリと目をやる。 この店にはテラスがあり、夜風にあたりながら酒が飲めるようになっていて。 俺の連れ3人は、そこにいた。 広瀬に片桐が寄り添い、対面に寺本。 無音声、無字幕であっても、楽しそうに話しているのがわかる。 たぶん寺本は、俺が辛いと思って、ふたりを遠ざけたのだろう。 寺本には昔、話したからな。 俺の初恋の相手が、片桐だってこと。 そして、さっきの数分で、俺がまだ片桐に未練があるということを察したのだろう。 ……まあ、たしかに、寺本の配慮は正しかったかもしれない。 ただし、全く別の意味合いで。 あのまま目の前で幸せを見せつけられてたんじゃ、俺は、酔いにまかせて、うっかりバラしちまいかねない。 あの事を。 片桐だけが知らない、真実を。 ……なんてな。 ここまで来たら、もう、どんでん返しなんて起きやしない。 これ以上、自分を惨めにしたくないさ。 あの時。 そう、あの日。 あの、雨の日── 俺と広瀬は当事者。 寺本には、後から俺が話した。 抱えきれなくて、誰かに聞いて欲しかったんだ。 しかし、幸いな事に、俺は打ち明ける相手を間違えていなかったようで。 それを聞いた寺本は真剣な顔で 「須本、あんた、バッカじゃない!?」 って言い放った後── 「……でも、不器用な須本らしいよ」 って、微笑んでくれた。 それで、いくらか救われたのは確かだった。 あーあ。いつまでも過去にしがみついてる自分が嫌になるな。 でも、そんな俺に、今日ぐらい感傷に浸っても良いだろうって、身体に回ってきたウォッカが言っている気がして。 そうだな。 最後。これっきり。 全部思い出して、 最後に一回だけ、あの日の自分を誉めてやろう。 そして、全部、忘れよう。 俺は、ゆらゆらと揺れる視界をまぶたで遮り、ゆっくりと記憶の糸をたぐり寄せた──
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