#02~夢幻に陰る月光

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  「やれやれ、思ってた以上に手荒い歓迎だね。危うく下半身と一時のお別れをするとこだったよ」 「フンッ……この際、リアルからも永遠のお別れをすればよかったじゃないか。その無茶苦茶な性格で、リアルは生き残れないだろ」  どこか聞き慣れた青年の声が、廊下の壁に寄り掛かって座り込んでいるセオに向けられる。  それは、狼のような付け耳をつけた長い赤髪を振り乱し、獣を模したワイルドなロングコートを身につけた青年。  手には、焔を封じ込めたかのような紅の刃紋を持つ刃が握られており、刃先から伝わる熱が、時折焔となって周囲に陽炎を作り出す。  そして、手にした刀を標的に突き付けた青年を前に、セオは妙に落ち着いた様子で彼に語りかけた。 「自分自身が求める刀で、俺を殺す……それが、君の夢か? レナード」  セオの目の前に対峙する青年。  それはまさに、今まで彼と行動を共にしてきた仲間、レナード・エリクス以外の何者でもなかった。  しかし、その瞳には光が全く感じられず、アメジストのように怪しげな闇を揺らめかせている。  さらに、彼が手にしている刀は、セオとレナードの因縁を繋ぎ止めている名刀……紅蓮刀『焔羅(ほむら)』であった。  勿論、本物の『焔羅』はセオの『クリフェトンの書』神頁第弍頁に神殻刀として収められている。  夢や現実を問わず、『クリフェトンの書』の所持者以外が易々と手に入れることは不可能に近い。 「ならどうする……俺が『焔羅』を求めるのは当然のことだとして、俺がお前の命を求めるのは不満か?」 「別に。何かを求めるのも、求めすぎるのも人の自由だと思うよ。それが本当に君の夢ならね」 「人の夢を全否定か……相変わらず言いたい放題な発言だな。まぁ、お前らしいといえばお前らしい……」  口調は明らかにいつもセオと共に行動し、会話し会っているレナード。  しかし、妙な闇が見え隠れする言動を前に、セオも余裕を見せることができずにレナードの手にする『焔羅』を凝視している。  レナードが叶えた夢が具現化した偽りの産物……。  レナード自身の夢が生み出した『焔羅』ゆえに、その力は計り知れない。  そして、目の前の現状に軽くせせら笑いを浮かべたセオがゆっくりと立ち上がった瞬間、レナードが静かに口を開いた。
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