#02~夢幻に陰る月光

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  「俺は、お前が思っているほど誠実な人間じゃない」 「へぇ、それは思いもしなかったな」 「無いものを無いと割り切ることには慣れてる……けど、割り切る必要が無いなら、俺は迷わずその道を選ぶ。俺も『焔羅』を手に入れたい欲望には敵わなかったよ」 「……それで? そんな欲望剥き出しな君が、俺に何の用なのかな?」  沸き立つ感情を抑えようとしているレナードに見兼ねたセオが、核心を突くように追求を深めていく。  吹っ切れたように悠々とした口調を前に、レナードもまた、その曇りきった瞳を彼に向けたまま、手にした『焔羅』を上段に振り構える。  そして、座り込んだままのセオにむけて、紅蓮が燃え立つその刃を真っ直ぐ振り下ろした。 「『焔羅』を渡せ。セオ・ディウェルソン!!」 「っ!?」  疾風をも両断してしまうかのような一旋が、真っ直ぐセオに向けて迫る。  しかし、その斬撃は、セオが反射的に掴み取った『鐵鷲』に受け止められた。  その場に凄まじい金属音と熱風が巻き起こり、興廃した室内をさらに陥落へ誘う。  そんな中でも、セオは追求の意を弱めなかった。  「どういうことかな……夢を叶えた君に、『クリフェトンの書』に収められた『焔羅』は無用だと思うけど」 「俺が叶えようとする夢はまだ不完全なんだよ。そして、それを完全なものにする要因は、お前が手にする『焔羅』なんだよ」 「俺の?……っ!!」  いきなり口調を荒立てたレナードに、セオも思わず動揺を示す。  そして、それを見抜いたレナードの右足が、セオの左脇腹を的確に捉え、無防備だったセオが廊下に投げ出された。  思わず苦痛の吐息を漏らすセオを見据えるレナードの瞳には、もはや仲間を目にする者の感情は見られない。  倒れ込んだまま彼を見据えるセオの姿を、夢に魅入られたレナードの瞳が静かに写していた。 「『焔羅』は二本もいらない……お前の『焔羅』さえ消えてしまえば、俺の手にする『焔羅』が唯一無二の名刀になる……俺の夢が叶うんだよ」 「な、なるほど……どうやら『悪夢の指揮刀(ナイトメア・コンダクター)』は、そうすることで君の夢が叶うと解釈したらしいね」  脇腹を押さえながら立ち上がるセオの発言に、一瞬レナードがムッとした表情を見せる。  そして、再び対峙したセオを前に、彼の手にする『焔羅』の刀身に紅蓮の炎が巻き起こる。
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