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人々がそれぞれの夢を叶えるために訪れた夢幻の都『ティタルメア』……。
訪れた者の思いが希望に満ち溢れているはずの世界も、今や自らの夢によって囚われた人々が残留する牢獄のような場所に変わろうとしている。
飲めや歌えの大騒ぎを催していた広場には、何百人もの人々が地面に倒れたまま動く様子はない。
しかし、それぞれの表情はとても穏やかで、捕われていることさえ感じられない清々しさが窺える。
獄中でさえ、そこに存在する快楽は人々の心を永遠の闇に閉ざしてしまう。
そして、眠りにつく人々をよそに、夢を見ることができない者への報いがティタルメアの町に鋭い戦慄となって張り詰めた。
「クッ、何が執事よ。人知を越えるにもほどがあるわ」
建物の屋根伝いに、頻りに背後を警戒しながら走るユリスの声が闇夜に響く。
その背後からは、彼女に向けて放たれる無数の炎弾が迫り、ユリスの走り去った後に激しい火柱をあげながら着弾する。
そして、その向こうには、逃げ回るユリスを見据えたまま不適な笑みを浮かべる燕尾服の女性フェスティの姿があった。
「人知など無用の産物です。いずれ現実は夢に取り込まれる……世界の人知があったところで無意味では?」
「わかりきったような言い草ね。そんな態度も大切なお嬢様のためかしら?」
白い手袋をはめたフェスティの手の中では、無数の炎弾が揺らめいており、それを弄ぶ彼女の発言がユリスを挑発する。
冷静を通り越して冷徹な印象さえ感じられる彼女の言葉に、ユリスも透かさず悪態を突き返す。
そして、フェスティがそのアメジストのような紫の瞳を煌めかせた瞬間、彼女の手の中で揺らいでいた炎が生き物の如くユリスへ向けて放たれた。
「私の思いは、常に主とともにある。誰にも邪魔はさせない」
「随分と誠実なのね。なら、私達なんかを巻き込まないで二人で一生仲良ししてなさいよ!!」
迫り来る炎を素早くかわしてみせるユリス。
着弾の爆風とともに、その体を素早く翻した彼女の手には、虹色に輝く二挺の拳銃『虹銃ガネットスター』と『睨銃サフィアスター』が握られていた。
一瞬、動きが止まったフェスティに、二つの銃口が狙いを定める。
そして、ユリスが透かさず笑みを浮かべた瞬間、彼女が引き金を引くとともに放たれた二つの弾丸が、虹の光を纏ってフェスティへ迫った。
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