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#01~夢の彼方の幸福
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どこかで手招く邪悪な闇……。
決して途絶えることなく、世界のどこかで続いているそれらは、立ちはだかる者は疎か世界の中で平和に暮らす人々にも恐怖を与えていく。
永遠に続く時間も、恐怖や破壊の中においては単なる苦痛の連鎖でしかない。
闇を消し去ることはできない……。
だが、苦痛から逃れることはできる。
人々は、後に訪れるであろう恐怖を前に、自らの心を現実から遠ざけることで回避することを選んだ。
耳を澄ませば聞こえてくる。
人々が歩むはずであった現実から逃れ、それぞれの幸福と思える世界を生き続けているであろう人々の歌声が……。
輝かしい未来永劫の快楽を喜ぶ人々を祝福する楽しげな音色が……。
そして、喜びに勤しむ人々の夢幻の思いは、やがて強大な力となって一つの世界を生み出してしまう。
それは、現実世界であって現実世界ではない。
現実という概念から完全に隔絶された世界であり、何の迷いや恐怖もなく、ただそれぞれの欲望の成せる。
その入口となり、現実世界で生きることを拒絶した者達の前に現れるゲートが今、音を立てて開かれようとしていた。
……。
開門の鐘は鳴り響いた。
新たに導かれるであろう現実世界からの来訪者を迎えるべく、その世界は更なる夢幻のベールを解く。
現実に現れた夢と希望の理想郷……。
もはや、現実の苦痛に晒されることもないそんな世界が織り成す歓喜の声が、門の向こうから聞こえてくる。
恐怖に縛られることなく、永遠の幸福とともに生きていく者達の声が、更なる物語の扉さえも開こうとしていた。
夢や幻では語りきれない、人々の思いが交錯する門の向こうで……。
…―
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