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Ρ
自然とは、時を刻むことを生み出した人間とは異端の次元を生きているのかもしれない。
ある時は、若々しい始まりの時を芽吹かせ、またある時は成長した自らの存在を際立たせる青々とした輝きを見せる。
やがて、その輝きは赤や黄色の独自の色へ染まり行き、それぞれの輝きを見せた葉は、新たに繰り返される命に希望を込めて散っていく。
それらの繰り返しが『四季』となり、移り変わる季節を前にして、人々は時間の流れを知る。
だが、それは世界に光あってのものであることは否めない……。
そして、四季によってそれぞれの色を多彩に染め行く木々の葉が、人里離れた森の色を紅に染める中、その一角で凄まじい衝撃が巻き起こった。
それは、紅葉に満ちた森に大きな地響きとなって地面に広がっていき、色づいた木葉を宙空に舞わせる。
人間の生活から完全に隔絶された木々の美しささえ漂う中、舞い散る木葉の奥にポツンと建てられた灰色の建物が確認できた。
その周囲には、『立入禁止』の立て札とともに建物を覆う鉄の柵が近づく者の行く手を遮っている。
明らかに人目を忍んで建設された実験施設のようにも感じられる不気味な建物で、突如更なる衝撃が巻き起こった。
実験による事故にしては、妙に人的なものを感じるそんな衝撃は、徐々に建物の外へと向かっていくようであり、外へ近づくにつれて衝撃が大きくなっていく。
そして、地響きによって木葉が徐々に落ちていく中、今まで以上の強烈な衝撃と轟音が森中に響き渡った。
まるで、砲弾か何かが直撃したかのような衝撃は、建物正面の壁に巨大な大穴を開け、崩れ落ちる瓦礫が辺りに四散する。
一瞬の静寂とともに、建物内で鳴り響いていた警報機の音が森中に響き渡った。
「フゥ……やれやれ、ようやく狭苦しいところから解放された」
静かな森を、一瞬にして動揺させていく。
そんな騒動の中、崩れ落ちた壁の穴より、銀色のアタッシュケースを左手に携えた一人の青年の影が現れた。
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