#01~夢の彼方の幸福

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   癖のついたボサボサの紫髪に、袖部にいくつものベルトが巻かれた藍色のジャケットを身につけている。  腰には、金色のブックカバーが取り付けられた分厚い本が下げられており、そのページ間には、金色の鍵剣が差し込まれていた。  さらに、建物を壊して開けた穴を通って外へ出る彼の手には、純白の鋼殻に覆われた巨大な大鎚が握られており、重量のあるそれを彼は無造作に引きずって歩いている。  そして、彼が建物から出た直後、背後から数人の足音が聞こえ始めた。 「まったく、静かに研究作業をしていたと思えば、随分と穏やかじゃないよね……」  薄暗い施設の中に目を向けると、彼の後を追ってきた白衣の男達が、手にした銃器を瞬時に構える。  その表情は、青年に対する敵意を剥き出しにしており、平然と立ち尽くす彼に狙いを定め、引き金に指をかけようとする。  しかし、そんな彼らの行動を見越したかのように物影へ姿を隠した青年は、手にしていたアタッシュケースを足元へ置き、両手で振りかざした大鎚を力一杯上段に振り上げた。  その刹那、大鎚を覆っていた鋼殻が白銀の光に包まれる。 「砕けよ神殻……コンプリートパウンド!!」  一瞬訪れた静寂が、施設内からの銃声によって掻き消される。  そんな静けさに別れを告げながらも、青年は振り構えた白銀の大鎚を勢いよく施設の壁に叩きつけた。  先程よりも激しく大地を揺らす衝撃が、周囲の木々や迎撃に臨んでいた白衣の男達の足元を揺らす。  一撃を受けた壁は大きく皹割れ、耐久性が著しく損なわれた建物の一部が凄まじい轟音とともに崩壊した。  先程、彼が開けた壁の穴は、一瞬にして瓦礫の山に埋まり、壁の向こうにいた者達が止むなく後退していく。
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