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#03~叶わぬ少女の夢
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全てが真っ白な部屋……。
清楚かつ清潔な印象を与えながらも、妙に現実味のないガランとした室内には、家具と呼ばれるものが見当たらない。
広々とした室内には、高級感のある立派なベッドが一つあるだけであり、そばの窓より入ってくる風が、純白のカーテンを揺らしていた。
ベッドの横には、燕尾服を身につけた執事が立っており、目の前で眠る主を見守っている。
そして、ベッドに横になっていた少女が徐に起き上がり、窓から見える外の風景に視線を移した。
「お嬢様、どうかしましたか?」
「……夢を見たの」
どこか弱々しく、張りのない少女の声。
ベールに隠れてしまい、顔は窺えない少女の様子に、部屋の横に立っていた執事が落ち着きのある言葉を投げ掛ける。
すると、少女はしばらく無言を呈した後に、その手を執事に差し出しながら続ける
「みんなが幸せでいられるようになる夢。パパもママも、あなたもみんな、泣いたり喧嘩したりしない幸せな夢をみたの」
「……それは素敵な夢でしたね」
平静を保つ執事の言葉に、少女はただ嬉しさに満ちた表情を執事へ見せた。
一瞬、窓辺より流れ込んでいた風が止み、周囲に静寂が訪れる。
そんな中、静かな室内で夢の内容を語る少女の表情に微かな疲労の色が浮かぶ。
額には欝すらと冷や汗が現れ、力無くベッドに戻る少女の体を、執事が素早く抱き寄せ、彼女を優しくベッドに寝かせた。
「……ごめんなさい。少し無理しちゃった」
「気にしないでください。お嬢様には私がついています。私が、いつでも傍にいます」
「うん。でも大丈夫だよ」
「?」
ベッドに横になった少女に、そっと言葉を告げた執事。
しかし、そんな彼女の言葉をよそに、少女は思いがけない一言を告げた。
その返答に、執事は思わず言葉を失い少女の表情を見つめたまま疑問を浮かべる。
そして、そんな執事をよそに、少女は平静を装うかのような笑みを"彼女"に向けて投げ掛けたのだった。
「また夢の中で会えるもん……ね。……――」
……。
一瞬、少女が執事の名前を呼んだ気がした。
しかし、その答えは汚れた現実の果てに忘れ去られたまま、それぞれの境界を隔ててしまう。
それは、まさに夢という理想が、少女の運命を大きく変える瞬間であった。
…―
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