天上世界の京の町。

11/13
808人が本棚に入れています
本棚に追加
/209ページ
「つもりも何も…俺の仕事場はそこだ。」 「あら、じゃあ所属を変えてあげるよ。 今日から帆波の仕事場は、その世界です!」 「ふざけんなぁあ!」 番人様は本気でキレているのに、蓮香さんはまだ笑顔のまま。 「ふざけてないよ? 帆波は今の“あの世”の現状戻したいんでしょ? カウンターは大丈夫だから、そこでとことん仕事しなよ。」 「蓮香! てめぇ…。」 「ヤッホー夜空ちゃん。」 さらりと蓮香さんは受け流した。 ピキピキと番人様のこめかみに青筋が立つ。 「こ、こんにちは。」 「ごめんね~、このバカが帰ろうとして心細かったでしょ?」 「あの…そんなこと…。」 ないと言ったら、嘘になる。 番人様が帰れないっていうのに、喜んでる私がいる。 もし記憶が戻るなら、戻ってない時間は寂しくて仕方ない。 番人様は、この世界で唯一の知り合いだから。 そこから先を言えない私に、蓮香さんは明るく言った。 「これから帆波をよろしくね。」 「え…あ、はい!」 思わず返事をしてしまう。 番人様ににらまれた気がしたけど、でもしょうがないんですよ! 「それとも、帆波もペンダント欲しい?」 「いらない。 俺は消えはしないから。」 ムッスリ怒っている番人様は、もう帰ることを諦めたようで。 何となく、カウンターでの番人様と蓮香さんの力の差が分かった。 「そう。 じゃあ帆波のボックスに必要そうな道具だけ入れとくね。」 「当たり前だボケ。 帰ったら覚えとけ。」 「帰って来られたらいいね、キャハ☆」 いちいちイラつきながら、番人様は何やら画面を操作し始めた。 「もう時間だ。 夜空ちゃん、早く思い出すといいね。」 蓮香さんはその言葉だけ残し、こちらとの更新を断ち切った。 私と番人様の間を、強い風が通り抜ける。 「そういうことだから…夜空、よろしく。」 「よ、よろしくお願いします!」 私たちが改めて挨拶していると、土方さんの部屋からまた笑い声が聞こえた。 「何がおかしい。」 「だってあんなにかっこつけて帰ろうとしたのに…失敗しましたね、えっと、帆波さん?」 「そうだけど?」 総司さんって、笑い上戸なのかな。 すぐ笑うけど…。 とりあえず、私と番人様は土方さんの部屋に戻ることにした。 …総司さんにキレて、またブーツを脱げない番人様を手伝ってから。
/209ページ

最初のコメントを投稿しよう!