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暗くて
電灯が点いてる所だけが不気味に明るくて
いつかここを女の子と二人で通りがかって
そんな憧れだけがそこにあった
わざわざ遠回りしたのは
そこを通るため
「そういえば桜さんはさっき誰と話してたんですか?」
「え?ああ電話?クラスの友だちですけど…あれ?聖君私の名前知ってたんですか?」
「さっき章の前書きを読んだんですよ」
「ああそれでーやっぱり知ってたのね」
「僕のファーストネームわかります?」
「せいと君でしょ?」
「当たりっははっ」
聞かれなかったから言わなかった。僕は今でも、さくらと言うのが苗字なのか名前なのか、はたまた徒名なのか知らないままだ。さくらという呼び名はさっき待ってる間に事務のお姉さんからちょっと聞いただけだった。
桜の視線はどこかねばっこく、そのネバネバした感じが嬉しくて僕は自分から絡みにいった。何かとんでもない闇の中に落ちてくような、だけれど胸が滾るほどのぽかぽかする幸せの中に包まれたような、不思議な気分だった。
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