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「ごめん。そのチョコレートは受け取れない。他に好きな子ができたんだ」
私、『松風しのぶ』にとっては、青天の霹靂であり、悪夢でしかなかった。
バレンタインデー当日、学校に行った私は彼氏である颯太に、そう告げられたのだ。
受け取ってもらえなかったチョコレート。
それは今もこの手にある。
あのあと、まっすぐ校舎の裏にやってきた。
こんな姿、誰にも見られたくなくて……。
体育座りで物思いにふけりつつ、手の中のチョコレートを見つめる。
きれいにラッピングされたハートのチョコレート。
颯太の喜ぶ顔が見たくて、いろいろな店を回った自分が惨めだった。
「なによ。……こんなもの!」
心のままに、チョコレートを投げ捨てる。
アスファルトの地面に叩きつけられ、転がる姿が自分と重なった。
それを見ていると、泣きそうになる。
泣いたら、もっと惨めになりそうで、立てた膝を抱きしめるように腕を回し、その中に顔をうずめ、涙をこらえていた。
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