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恐怖と不安と緊張で身震いしながら、シルファは屋敷とは反対側の山の麓の方を見下ろす。
呆然としながらも、暗闇の中に、自分がついさっきまで暮らしていた村を探すと、それらしい場所から微かに煙のようなものが上がるのが見えていたが、もうずっと遠い山一つ向こうだった。
「…すごい…。村があんなに遠い…。」
こんな距離を、一瞬で・・・。
「おい。もたもたするな。早く来い。」
「あ、あ、はいッ。」
急かされて、シルファは自分の立場を思い出し、急いで男の後をついて行った。
門をくぐると、どう見ても好き放題生い茂ったような草木が、屋敷までの道筋を邪魔して、進むたびにシルファの手や脚を掠め、その度に小さな痛みが走った。
しかし、前方を歩く魔道士は、一切それらを気にする様子も無く、先に進んでいく。
くねくねと細い石畳の上を歩き、しばらくしてようやく屋敷の扉が見えてきた。
「おい。嬢ちゃんのこと、覚えさせとかなくていいのか?」
シルファの足もとをスルっと滑るように抜けて行った猫が、低い声で言う。
「ね…ね…猫ッ?しゃべ…っ?」
「なんだ、今頃気づいたのか?」
猫はククっと不気味に笑い、シルファの肩に乗るとペロッとその頬をなめた。
「ひッ…?」
「ノワール。ガキをからかうな。悪趣味だぞ。
お前の方が、よっぽどロリだろ。」
「俺に歳は関係無い。」
「この変態猫め。」
そのやり取りを、シルファは唖然としながら見ていた。
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