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ザバァッ!
お湯から出て、囲いの途切れた部分から、その外を覗く。
どうやら、隣にも同じような露天風呂があるらしい。
だが、アンジェラのいる場所からでは人の姿はまるで見えない。
アンジェラは少し考え、体が冷えぬように再びお湯に浸かると、両手を合わせ印を結んだ。
「羽菜(はな)。」
そう呼んで、アンジェラは右の掌を上に向けて開く。
そこに、半透明の羽を持つ蝶が現れる。
「お願い。」
アンジェラの魔力から作りだした蝶で、目と耳の代わりを務める。
羽菜はひらひらと舞いながら、囲いを越えていく。
それを見送って、アンジェラは目を閉じ、羽菜に意識を集める。
閉じた視界の中に、うっすらと浮かび上がる二つの影。
見える映像は鮮明ではなく、ぼんやりともやが掛かったようではあるが、見知った人物を探すなら充分だ。
そうして、羽菜はつかず離れずの距離を保ちながら、その顔を映し出す。
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