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「夢ん中にいるのと似た状態だからな。そっから醒めたら、何も覚えてないか、覚えていても、現実じゃないって思うんだよ。」
アンジェラは悔しさから、キっとノワールを睨みつけている。
それを見て、ノワールは少し困ったように小さなため息をこぼすと、徐にその頬に手を伸ばした。
「どうでもいいけど、湯冷めするぞ。」
濡れた髪と冷えた頬に軽く触れる。
その指先に、びくっと過剰に反応して、アンジェラは身を引いた。
「お前、仕事で来たのか?」
「え?…あ、ええ。」
思いもかけないまともな質問に、一瞬戸惑う。
「バカ犬が暴れてたもんなぁ。御苦労なこった。」
「バカ犬…。」
「三頭犬なんか、三つも頭ついてるくせして、でけえ体転がすしか能がねぇ。しかも、臭ぇし…。」
しかめっ面でぼやくように言う。
その姿は、あまりにも悪魔らしくない。
「…ぷ…っ。」
「ん?」
「ふ…。ふふッ。あはははっ。確かにッ。」
妙に可笑しくなって、アンジェラは吹きだす。
「ほんっと、マジでくっさいのよ、あのバカ犬ッ。息止めてたもん、あたしッ。」
声を上げて笑いだしたアンジェラを、ノワールは少しだけ笑いながら見ていた。
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