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「……カイル様」
哀しみのこもった声音に、シリルを見た彼の表情が僅かに歪むが、やがて視線を逸らすと続ける。
「試合はまだ終わっていません。貴女の命もまだ、狙われています。容易に指定の場所から離れないで頂きたいのです」
「……はい。分かりました」
シリルもそれで諦めたのか、乱れた衣服を整えるとか細い声音と共に頷く。
それを機に、一旦は落ち着いた場に届く程の喚声が響く。
驚いた彼がシリルと顔を見合わせ、声の正体が何なのかを確かめようと、執務室を出ようとしたところでドアが先に開いた。
「カイ、大変だ!」
珍しくノックもせずに入ってきたのはアルカードで、よほど慌てているのか急ぎ足で息を切らして彼へと近寄る。
「アルカード王子、そのように慌てて、一体どうなさいました?」
先刻起こった喚声と関係があるのだろうと、即座にそう踏んだ彼だった。
だが、まずはアルカードに落ち着きを取り戻してもらうため、一際冷静にそう問いかけて先を促す。
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