第五章・―武術大会、開始―

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 長い廊下を歩く中でも二人は無言で、アルカードに至っては、彼の格好にさえ気を使っていない様子だった。  シリルやティリスもそうだったが、彼は試合中に負傷している、いわゆる怪我人である。  一応時間の経過と共に自然と出血は止まっているが、身体同様衣服もぼろぼろな状態なのだ。  普段ならばそんな事はない筈なのだが、今は余程動揺しているのか、そんな些細な事にも気付けない様子のアルカードが、彼の手を引きながら早口で告げた。 「カイ、事態は深刻だ。犯人は騒ぎに紛れて捕まえられなかったのだ」  つまり、試合は始まった途端に終わり、しかも加害者は初めからそうするつもりであったのか、騒ぎに紛れて巧妙に行方を眩ましてしまったらしい。  今の状態では速やかに犯人を捕まえ事態を収束させる事は難しいだろう。  これが計画的に行われた事ならば、彼らは完全に裏をかかれたと、負けを認めざるを得ない。 「成る程、巧妙だな」  そこまで考えてそれだけ唸ると、彼もいっそ記憶から怪我の事を追い出し、取り敢えずアルカードとの会話に専念する。
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