第六章・―疾走―

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「対戦が始まるなりティアマトは、フルフェイドと何か深刻な会話をしているようでした」  内容は誰にも知れないのだろうから、そこは敢えてスルーして無言で先を促す。 「……事件が起こったのはその直後で、ティアマトの話に怒った様子のフルフェイドが、息吐く間もなく斬り捨ててしまったのです」  そこまで相手を怒らせる程の内容ならば、余程不穏なものなのだろうか。  しかしそれにしてもいきなり斬りつけるとは、どんな理由があってそうしたのか、想像すら出来かねる。 「……そしてそれから、我々が制止するのも構わず闘技場から降りて、そのまま人ごみへと紛れてしまいました」  深刻な会話の内容が気になる彼だったが、今回行われているのが普通の武術大会ではないだけに、おおよその推測は出来た。  今はその事を追及しても仕方ないため、取り敢えずその件は保留にしておいて、彼は一先ず立ち上がり人ごみを見回して真剣な表情になる。  一番の問題は、フルフェイドをこの場で捕らえられなかった事実だ。
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