第六章・―疾走―

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 彼が見たところでもティアマトの傷は深く、即座に医務室へと運ぶよう指示してから向き直る。 「傷は深いが、恐らく命に別状はないだろう。……目をつけてはいなかったが、そのフルフェイドという男、余程の手練だな」  調べた限りでは、暗殺に関しては潔白で、しかも過去に黒い部分は一切見受けられなかった。  そのせいで一般の参加者と同様なのかと、はっきり言えば油断していたのが、いとも簡単にフルフェイドを取り逃がしてしまった一番の原因であった。 「そのようですね。……一部始終を見ていたアルカード様も、同じ事を言っていました」  頷くルヴァンに彼は小さく息を吐くと、予選の時に垣間見たフルフェイドの顔を思い出す。  纏う雰囲気にも、その太刀筋にも、さして危険な箇所の見受けられなかったのだが、こうなると監視対象に入れておかないといけないだろう。  事も済んでいないのにまた面倒事が増えたと、小さくため息を吐く。  そうして気を取り直すと、いまだにざわつく観客と会場を収めるために闘技場へと上がったのだった。
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