第六章・―疾走―

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 闘技場の真ん中では、どうしたものかと思案している様子の司会者が、声も出せずに立ち尽くしている。  そんな司会者へと近付くと、彼はにこやかに声をかけた。 「シーフ、大丈夫か」 「……あっ、カイル様。どうしましょう、武術大会で怪我人など、あの……」  声をかけられてようやく自分を取り戻したようで、それでも突然起こった不測の事態に狼狽えている司会者が、非常に申し訳なさそうな表情を浮かべながら言葉を濁す。  恐らく、試合の続行か否かを決めかねているのだろう。  無理もない。平和な王国ではこのような場面になど滅多に出くわさないのだ。  動揺しても仕方がないとばかりに、司会者をに目線を送ってから更に、ざわつく会場を見回す。 「シーフ、今回は何が起こっても堂々としていてくれ。無論、試合は続行する。第四試合は、ティアマトの負傷により続行は不可能と見なし、フルフェイドの勝利とする。……それで良いな?」  彼が問いかけると、司会者はしばらく考える仕草を見せてから、初めて安心したように頷いた。
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