第六章・―疾走―

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「よし、では私は次の準備をしなくてはいけないから、その旨を観客に伝えておいてくれ」  あらゆるアクシデントに対しては臨機応変にこなしていかなければ、問題は何一つ解決しておらずむしろ山積しているのだから、ここで右往左往する時間すら惜しい。 「は、はいっ」  司会者は笑みを浮かべて付け足す彼を見て再び頷くと、握りしめていた両こぶしを緩めて観客へと振り返る。  その様を確認した彼は颯爽と闘技場から降りると、丁度全てを終わらせた様子のルヴァンに歩み寄って耳打ちした。 「それで、リディウスの件は?」  捕らえてからの報告は怠るなと伝えておいた筈だが、そういえば一向に何もなかったと聞いてみる。 「死んでも雇い主の名は吐けないと、その一点張りです」  やはり話せるような情報は得られていなかったようで、残念そうに報告するルヴァンの肩に労いの代わりに手を置き、そのまますれ違う瞬間に闘技の再開が伝えられる。  それで一気に沸き上がった会場をしりめに、選手控え室へと向かった。
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