第六章・―疾走―

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 選手控え室に人気は少なく、案外フルフェイドが戻っていないかと薄く期待を抱いていた彼であったが、まぁそんな間抜けな事はしないよなとばかりに小さくため息を吐く。  設置された椅子に座っているのは女拳闘士、ルーナ=シャラデンス一人であったからだ。  普通に考えれば今頃フルフェイドはサウスパレス王国を出て、まさに悠々と、どこへなりとも逃亡しているのだろう。  過ぎた時を悔いるよりも出来る事をしようと気持ちを切り換える。  ルーナは確か、要注意人物の一人であった。今の内に探れる事は探っておこうと、周囲に人気がないのを確認するとルーナに近付く。 「第三試合を勝利したルーナ嬢ですね?」  資料通りならば、ルーナは元某国の騎士であったリディウスより、遥かに危険な暗殺者である。 「……そうだが」  豊かにまとめた髪を優雅に揺らし、ルーナが彼に視線を寄越す。  それはまるで獲物を射抜く鋭さを伴っていて、にこやかな笑顔を浮かべた彼の表情も、悟られないくらいに真剣なものへと変化する。  そんな彼に、ルーナが言い募った。
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