第六章・―疾走―

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「ティアマトは、馬鹿な奴だな」  それは呟くような台詞で、耳をそばだてていないと聞こえないくらいの声音だったが、彼は僅かに反応するとルーナを見返す。 「……何か、知っているのですか?」  賊に情報を与えてもらうという体はあまり良しとはしないのだが、何かしら知っているのならば掴んで利用させてもらいたい。  焦る様子を悟られぬよう、なるべく自然に見えるように返す。 「それを調べるのが貴様の仕事だろう。サウスパレス王国の騎士、カイル=グランデ」  彼の質問に嘲笑うように応えるルーナに、やはり一筋縄ではいかないかと嘆息した。  しかしそれでも、しばらくは変化がないかと見合っていたが、やがて脈はないと判断し、彼の方から視線を逸らすと身を翻した。 「ルーナ=シャラデンス、次に闘うのを楽しみにしていますよ」  穏便に聞き出すのが無理なら力ずくでそうするしかない。  そうして背中越しにそれだけ言うと、後は用がないとばかりに選手控え室を後にした。
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