第六章・―疾走―

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 身のこなし一つ取っても洗練されていて、攻撃も優雅にすら見える程の腕前であった。  だから今までの武術大会や公式試合に名を連ねた事もあるのだろうかと、結構時間をかけて調べたのだが一切の情報は出てこなかった。  まさにこの武術大会に参加するためだけにぽっと出たような存在で、彼にとってはいわゆるダークホースのような相手であった。  そんなランスロットは、試合の様子を真剣に見ておいて後の戦いに備えるつもりなのか、結構近くにまできているのに彼に気付いた気配はない。  それどころか、何故か険しい表情を浮かべながら闘技場を見詰めているので、これ以上黙っているのは失礼だと判断した彼は、更に近付いてランスロットに声をかけた。 「ランスロット殿、このような場所で試合観戦ですか」  彼は昔から勘が良い。敵ではないと咄嗟に判断しての接触である。 「……貴殿は確か、サウスパレス王国の騎士団長、カイル=グランデ殿であったな」  突然声をかけられたランスロットだったが別段驚く事もせず、ゆっくり振り向いてから彼を確認して問いで返す。
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