第六章・―疾走―

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 彼が頷くと、ランスロットが堅そうな風貌とは裏腹に柔らかい微笑を浮かべ、深く一礼してから頭を上げる。 「まさかサウスパレス王国にて、武術大会に参加出来るとは思わなかった。……この平和な国で、一体何が起こっているのです」  そしてそのまま時間も惜しいように問いかけてくるのに、たたずむ彼は矢継ぎ早の質問にはすぐには答えずにしばし観察する。  ーー見たところ敵意もなく礼儀正しい男のようだが、それでもありのままを素直に信用する訳にもいかない彼が僅かに苦笑する。  そうしておいて、さすがに黙ったままでは相手に失礼であるからと、取り敢えず無難な答えで切り抜けようと口をひらく。 「平和な国であるからこそ、たまに娯楽も必要です」  現時点で部外者である相手に話す訳にもいくまいと、曖昧な返しで誤魔化そうとしたのだが、ランスロットには生半可な小手先の手段などは通じなかったらしい。
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