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校舎内に響き渡る鐘の音に、生徒達は一斉に部活を切り上げ教室に向かっていた。
「おはようがっくん!」
「…おはよう」
「あれ、今日は寝不足?」
「―なんで?」
「おはようを言うまでの間がいつもより長かったし、目が半開き」
「間って…」
朝練が終わり一目散に向かった花壇で半寝しながら水やりをしていた鈴橋を拾うと、うつらうつらする様子に転けやしないかと心配になりつつ共に階段を登る。
無事登りきり教室のある廊下まで来ると、窓の外を眺める安積を見つけるが、大抵一緒にいる筈の班乃の姿がない。
『またなにか頼まれ事でもしたかな?』
大変だなぁー…と人事のように思いながら、いつものように挨拶を投げる、が…
「………」
「…あれ?スルー?聞こえなかったのかな?」
「聞こえなかったって言うか、心ここに在らずな感じだな」
「うーん…朝からせーちゃんが変だと調子狂うなぁ」
安積の側へと駆け寄り肩を叩いて“おはよう”と声をかけると、吃驚したように目を見開いてから、笑っておはようと返してきた。
「どうしたの?声かけたのにスルーされたからちょっと悲しかったよぉ」
「えっ!?マジで?ごめんごめん、気がつかなかったぁ…ちょっと考えごとしてて」
「安積が考え事…ね」
「ちょっ!俺をなんだと思ってるの!?いつも元気いっぱいな俺だって物思いにふける事もある悩み多き高校生だよ!」
「そうなのっ!?」
「失礼だなっ!ww」
肩を叩かれ大げさに痛がる植野につられるように安積の顔にも笑顔が浮かぶ。
が…なんか違う気がする。
2人のやり取りをほぼ会話に参加する事無く見ていた鈴橋は、安積の小さな変化に気がついていた。
「―おもしろいか?」
「え?」
「ん?」
「なんか、笑い顔が変」
「俺っ!?」
「俺っ!!?」
「いや、安積の方。無理やり笑ってるみたいに見えたから…気のせいだったら良いんだけどな」
「あー…いや、がっくんすっげー観察眼。実は今日すんげー夢見わるくってさぁ。朝からブルーよ」
「夢見悪かっただけか。心配して損した」
「心配して損なんて事はないでしょ!何もなければそれでいいし、あったらあったで話聞けるじゃんっ!」
「それはそうだけど、せーちゃんがそれいう?」
「あ、俺のことかっw」
賑やかに交わす会話はHR開始の鐘に遮られ、会話も途中に3人はそれぞれ教室へと入っていった。
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