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「僕らは次の授業は教室なんで良いですけど、綾雪は次移動教室ですよね?」
「え?」
「予鈴、もう直ぐ鳴りますよ?」
班乃のセリフの語尾に被さるようにしてチャイムが鳴り響いた。
「やばっ、がっくん急ご…」
早く行かなければと鈴橋へ手を伸ばし振り向いた時にはすでに、先程まで彼がいたその場所は無人になっており伸ばした手が空しく空を舞った。
「では、失礼しますねー」
「えっと、頑張ってっ!!」
一人残され暫し呆然とその場に立ちすくんで居たが、教室から向けられる班乃の満面の笑顔になんとか泣き笑いを返した。今から走って多分間に合わない。教師に怒られる準備をしながら、それでも早足で移動教室へと向かうのだった。
そんな植野をしっかりと教室内から見送った班乃は、今度は疑うような表情で、安積へと視線を向けた。
それに…
先ほど言いかけた言葉。
言った方が良いのか明にはまだ分からないが…
きっと安積はあの人に会える。あの人が懐かしそうに語った人物。それはきっと安積に違いないだろう。
あの人は寂しそうに笑いながら幸せでいるならそれで良いと言って居たけど。
絶対会いたがっているはずだから。
会いたがっている同士がこんなに近くにいるのだ。会えない筈がない。
生きて居るのだから。
首から下げた鎖の下部分。
服に隠れた飾りがついているであろう箇所を軽く押さえた班乃は、小さくため息をついた。
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