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そこから二、三歩足を進めると、桃色の髪の奥に見える仮想獣人が狼男だと確認できる。隙をうかがうように身構えている獣人に対して皐月は体勢を低めに構えた。
その動きと共にちらりと皐月の横顔が見え、その表情からは少しの焦りを感じとれた。
んっ、どうしたんだろう? 皐月は融合をしない純粋な人間だけど、並みの人間の能力とは、かけ離れた力を持っているはずなのに、こんな格下相手に焦りを見せるなんて。めずらしい。
──! 狼男が皐月より先に動いた。一気に距離を詰めた狼男は右腕を振り上げて、視線を皐月の胸元辺りに移す。
狼男は胸元を抉りとりそうなほどの鋭い爪を皐月に向け、上げた腕を振りおろした。同時に皐月は上体を反らせながらそれをかわして床を蹴る。
皐月はそのまま風に身を委せるように狼男の背後で宙を舞った。
綺麗──。
空中で皐月は三度ほど回転し獣の首元に足の甲をめり込ます。
凄い。風と踊っているみたい。
狼男はその場で身を崩した。
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