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四畳半ほどの部屋を持てあますように、壁際に置かれた安楽椅子に腰をかける婆様は、膝に座る私にゆったりとした口調で話しかける。
「凛ちゃんはお母さんみたいな立派な人になりたいんじゃもんね。もう五歳じゃし、今日は一つ本当にあった昔話でもしてやろうかの」
無邪気な笑顔で婆様を見あげたり左右の足を交互にパタパタとばたつかせたりと、少々おちつきの無い様子で適当にも見える相槌を二、三度うっている姿が見える。
「やったー! ばあ様の昔話、すごーく面白いから楽しみ」
幼い私がそう答えると、婆様は目の前にある栗色の頭をやさしく撫でながら「そうかい、そうかい」と更なる笑みを溢した。
今は亡き婆様の笑顔が、このころの私は何よりも大好きだったんだ。
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