狐と吸血鬼はこうして出会う

3/15
42人が本棚に入れています
本棚に追加
/125ページ
その大きく軋む扉を潜るまでは、太陽の恩恵を受ける光の世界。その扉を越えた先には閉め切られたカーテンに日光が遮られた闇の世界。標高の高さも相まってか、寒気が服の中の肌まで入ってくる。 「だから、もう一枚羽織ってきなさいと言ったんです。これを着ていなさい」 思わず腕を擦ってしまった私にふわりと掛かる先生の暖かいウィンドパーカーと言葉。 まるで恋人同士のやり取りで、身体よりも顔が暖まってきました。 依頼者から渡された建物の見取図を真剣な眼差しで眺める先生の凛々しい横顔。 ミステリー小説の舞台のような山中の湖畔にひっそりとたたずむ、入った者が帰って来ない謎の洋館。その謎に挑む美男美女の二人組。数々の襲いくる怪奇と危険。それを手を合わせて解決していく二人。謎が解き明かされし時、二人の曖昧だった関係も、愛と言うはっきりとした形に……。 「渡部~、私も寒いんだけど」 「貴女は大人でしょう我慢しなさい」 という展開は待っていそうに無い。お邪魔虫が何故か付いてきているからだ。 今回は、春川さんが持ってきた話では無いのに、私と先生が二人でお出掛けしようとする所を、たまたま非番で彼女の暇潰しの常道である我が家を朝から訪ねて来た彼女が目撃。面白そうだからという理由で付いて来たのだ。そんな適当な理由に私は騙されませんよ。どうせ、先生と一緒に居たいだけなんでしょう。 「とにかく手分けして消えた人達を探しましょう」 そう、ここでは人が消える。私達の住む流柳町から車で二時間の山の中の別荘。元々、とあるお金持ちの造った持ち物だったらしいけど、年を取り、使わなくなって早十数年。去年、近くの村に寄附したそうだ。 村はせっかく貰った物だから、観光にでも役に立てようと、建物調の査員を派遣した。 そして、その人は消えた。次にその人を探しに来た駐在さん。自ら調査に来た勇気ある村長さんと村役場の数人。次々にこの建物に入り消えていく。 遂に、困り果てた村役場から、こういう方面では密かに名が知られている先生へ。 「僕は二階を見てきますから、春川さんと三穂は二人で一階をお願いします。危ない気配は感じませんが、危険を感じたら直ぐにその場を離れて下さい」 えっ、私、春川さんとですか?先生と一緒に行きたいよ~。そんな想いを瞳に乗せて先生を見詰める。
/125ページ

最初のコメントを投稿しよう!