狐と吸血鬼はこうして出会う

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「春川さん、三穂が危ない事をしないように、しっかりと見ていて下さいね」 先生にとっての私は、眼を離すと何を仕出かすか分からない子供何ですか?私、グレちゃいますよ? 「ハイハーイ。まぁ、三穂ちゃんの面倒は私に任せて起きなさいって」 貴女に面倒を見て貰うんじゃなくて、私が貴女の面倒を見てあげるんです。 とある大金持ちさんは、余程太っ腹らしく、家具や調度品一式ごとこの別荘を寄附したらしい。日光を閉ざされた闇に眠る高級感と埃を纏うその物達と邸内の静寂が、主なき館の寂しさを物語っている。 「何か、如何にも出るって感じだよね?」 ウキウキと言う春川さん。彼女にとって、ここは遊園地のお化け屋敷。 私にとってはちっともワクワクはやって来ない。この前、取り壊し反対ポルターガイスト運動を行う廃病院の住人達の説得に先生と二人で行った時の方が雰囲気が出ていた。 隣に居るのが三十路に差し掛かった女性でなく、先生だったらもう少し良い雰囲気が出るのに……。 「アッ、あのさぁ。二人きりだからずばっと聞いちゃうけどね。三穂ちゃんって私の事、嫌い?」 急に声のトーンを落として苦笑いを浮かべながら、おずおずと訊ねてくる春川さん。 「別に嫌っては無いですよ」 社交辞令です。 嘘です。 そんなこと正直に答えろと言われても困ってしまう。別に嫌いではないと思う。人間の中では先生に次いで私と付き合いの長い人。彼女のチャームポイントのおおらかさと明るさは尊敬に値すると思うし、そんな春川さんに好感も持っている。ただ、私の先生に親しげに近付くのは頂けない。先生が春川さんに笑みを向ける時、どうしても私の心は痛んでしまうから。 これは、春川さんだけが悪い訳じゃない。そんなことに嫉妬してしまう小心者の私も悪ければ、先天性鈍感無意識浮気症重症患者の先生が一番悪いとも言えるのだ。 「……そっかぁ、良かったぁ!私は三穂ちゃんが大好きだ!」 何をいきなり大声で、って、その羨ましき豊満な胸を押し付けるなぁ~。私だって、化けようと思えば大きくだって小さくだって、先生の望むまま。 でも、先生に『乙女が無理に淫らな格好をするものじゃありません。普通で良いんです』って、言われてたから、普通のサイズにしているんです。先生はこのサイズが好みなのです。 別に春川さんの自然に整ったスタイルが羨ましいと思った事なんか無い、と思いたい。
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