狐と吸血鬼はこうして出会う

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「春川さん、ふざけて無いで早く探索を切り上げて先生と合流しましょう!」 いい加減に煩わしいので、春川さんを引き剥がす。 「先生、せんせい、センセイ、三穂ちゃんは本当に渡部が好きだね~」 先を行く私に追い討ちを掛ける春川さん。 ええ、そうです。私は先生が大好きですよ! この洋館の一階には五部屋。その五つ目、最後の扉を八つ当たり気味に思っいっきり開く。 「五月蝿いぞ。扉は静かに開閉しろと親に習わなかったのか?」 窓際には長年使われた形跡の無いアンティークディスクに、壁に並ぶ本のこれでもかと詰まった本棚。中央に応接用のソファーとテーブルが並んでいるが、二脚一対にテーブルを囲んで居ただろうソファーの一脚は、明々と火を灯す暖炉の前に移動されている。 その此方に背を向けたソファーの上から伸びている白い手と本。 「えっと読書の邪魔しちゃいましたか?」 あまりの突然の遭遇に思わず低姿勢になった私。その声に応答してか、本を閉じ、ソファーに深々と横たわっていた身を起こす声の主。染めた訳では無い純粋な金髪、そして、白い肌と相成って光る赤い瞳。乙女である私から見ても素直に綺麗な女性だと思える人。 「フム、また親父共かと思ったら、今日は妙齢の女性か。私は君達を歓迎するぞ。実に美味しそうな獲物が二人もやって来るとは、今日のディナーは豪勢だな」 流石に舌嘗めずりはしない物の赤い眼が鼠を前にした猫のように爛々と輝いています。その目付きに私の背筋を何か気色悪いものが這いずり回る。 「私達、ここで行方不明になった人を探してるんだけど、貴女、何か知ってるよね?」 正体不明の相手に怯えることなく、堂々と訊ねる春川さん。先生が彼女に信頼を持つ理由が少し分かります。
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