狐と吸血鬼はこうして出会う

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そんな勇気に溢れる春川さんの前進に怯む事なく、女性は此方に接近してくる。 「そんな無粋な者達の話など、今はどうでも良いではないか?私は今から少し早いディナーにしようと思う。貴女達を招待したいのだが、ご一緒にどうかな」 顔一面に笑顔を張り付けながら歩み寄って来る女性に逆に春川さんが一歩後退。えっと、召し上がるのは私達ですか?全力で遠慮します。 「えっと、三穂ちゃん。これは渡部呼んだ方が良いよね?」 この提案には全力肯定です。この外人女性は色々な意味で危険な匂いをプンプン放っています。 「まぁ、そう言わずに是非、私主催の晩餐会に参加してくれ」 私達の逃げようとする気配を察してか、女性の足の歩調が速くなる。 春川さんに続き、私が一歩下がった瞬間。女性の姿が私達に急接近。三メートルの距離は、一メートル足らずに消える。 「私がせっかくのご馳走を逃がすと思わないで欲しいな?うん?」 一瞬で、私達とその女の間を縫うように走る炎の線。女性がその攻撃を避けて、炎の壁が私達の間に立ちはだかる。 「フム、そっちの小さいのは只の人間では無いのか?」 炎越しに私を見つめより光を増す赤い瞳。私の身体に違和感が走る。 「三穂ちゃん、ボケッとしてないで行くよ」 隣に居る筈の春川さんの声がひどく遠くに聞こえる。 「そちらのレディは私の眼が効かないのか?」 炎の向こうで、私の心に染み入るような美声。私、何をされたの? 「ちょっ、三穂ちゃん!どうしたの!」 「春川……さん、先生を早く呼んで……」 重い唇が何とか開く。春川さんの声がもう聞こえない。私に見えるのは炎の先に光る赤い瞳。吸い込まれそうで凄く綺麗。 「むう、肉付きが良く美味しそうな方に逃げられたか。まぁ、此方の色々と小さい小娘で我慢するか」 その人は指をスッと振る。凄く様になる美しい仕草。突然何処からか大量の水が落ちて来て、私の作った炎の壁は音を立てて一瞬で崩壊する。
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