狐と吸血鬼はこうして出会う

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先に動くは相手の方。その彼女の動く軌跡。私には眼で追うのがやっと。あっという間、アッとも言えない間に、先生をその爪の餌食に。 「渡部!」 「先生!」 「掠っただけです」 私達の心配の隠った声に答える先生の肩口からは、赤い液体が飛び散る。 「フム、その剣、なかなか厄介なものらしいな。まさか私の動きに反応出来るとは、見事だぞ、眼鏡」 「お褒めに預かり光栄です」 先生から距離を置くヴァンパイア。その長き爪が指先から床に落ちる。 「これは私も余裕綽々とはいかないな。少し本気を出した方が良さそうだ」 言葉とともに彼女が纏う空気は異様な物に変質していく。私を襲う、寒い、怖い、逃げたいの警告シグナル三拍子。 「それでは、僕も本気を出さねば失礼ですね」 そんな彼女の殺気にも動じず、さらりと挑発を返す先生。私を襲う、暖かい、優しい、側に居たいの愛のシグナル三拍子。 「人間ごときがほざくものだな!」 再び伸びる爪。そして、バカの一つ覚えのように先生に突進。 「結璧」 先生が宙に翳した手から、この世を創りし五つ根源の気を集めた完全なる形、五芒星が浮かび敵を阻む。 彼女の鋭き武器は、その盾を貫けず。 「金気」 先生が空かさずポケットから取り出した市販されている何の変哲も無い鉄の釘。先生の声と共に、まるで生き物のように成長し、弾丸の如くヴァンパイアの両腕と腹部に刺さる。五センチに満たなかった鉄屑が二メートル近くに伸び、そのまま、彼女を壁際に張り付ける。 壁に釘打ちされ流石に顔を歪める彼女。 「私の敗けだ。眼鏡、なかなか強いな……」 無言で剣を向ける先生に痛々しい笑みを向けるヴァンパイア。少し哀れに見えてしまう。 「ヴァンパイアは、魔術に長けてると聞きます。何故使わないのですか?」 つまり、彼女は今なお、手加減しているということですか? 「今さら、こんな勝敗に私は興味は無いんだ。殺るなら早く殺ってくれ」 苦しそうに寂しそうに笑う彼女。先生は無言でそれを見詰めている。 「お前達の探し人達ならキッチンにある階段下のワインセラーで眠っている。私を殺せば眼が覚めるぞ」 死を目の前に、微笑みを称えている彼女。はっきり分かる。この人は何処かで死にたがってる。昔の私と同じで。
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