狐と吸血鬼はこうして出会う

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その悲壮感漂う姿に、更に私は苛立ちを覚える。この溜まった鬱憤を晴らしてやる。 「さっきから、何なの!私は確かに人間じゃないよ!でも、この世界に生きたいんだよ。高校にも通ってるし、家事や買い物だってしたい、恋だって……したい。妖怪はここにいちゃいけない、ふざけないで!」 私にはこの世界でやりたい事が色々ある。その中で一番は、先生とずっと一緒に居たい。 「フフッ、羨ましいものだな。お前はこの人間の世界に認められているのだな」 赤い眼が悲しげに輝く。そう、私だって人間の先生と居るからこの世界に居るだけ。私だって心の奥底で人間とは違う寿命、異質な力、種族の違いから引け目を感じている。それでも、私はここに居たいのだ。 「だったら、私達、妖怪が住める世界を創る!妖怪の妖怪による妖怪の為の世界を。人間と仲良く、貴女や私の居れる世界を創る!」 春川さんが後ろで声を殺しながら腹を抱えて笑ってる気配と先生から漏れる失笑、私の演説は失敗のようだ。我ながら、勢いに任せて大風呂敷を広げ過ぎた。 ヴァンパイアのエルさんは呆気に取られた表情で私を凝視しているし。 よし、私の赤面を隠す為に今から外に穴を掘って、そこに籠ろう。 本気で逃げ出そうと思った矢先。立ち上がるエルさん。私の両肩に既に傷の塞がった手を置き、私の顔を真剣に見ている。背の関係で僅かに見下ろされ、私が羞恥心に耐える中、たっぷり三十秒ぐらい眺め、やっとエルさんの口が開く。 「妖怪の妖怪による妖怪の為の世界な。ゲティスバーグの演説をするには、些か実力も経験も足りないのではないか?」 分かってますよ。もう止めて下さい。もう忘れて下さい。リンカーン大統領、ご免なさい。 「……しかし、先程の三穂の演説、いや、私への告白、私の心の琴線を掻き鳴らしたぞ」 肩にあった手が急に私の腰に回る。そして、瞳に映る私が見える位置に近付いて来る顔。 「どうやら私は骨の髄まで、三穂に惚れてしまったらしい……」 その突拍子の無い言葉と更に接近してくるエルさんの顔に頭が凄く混乱してしまう。もしかして、私は只今大変危険な状態じゃない?
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