狐と吸血鬼はこうして出会う

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・・・ 良い夢を見た。愛しき人との運命の出会いの日。私に三穂という居場所が出来た日。人生最高の日。 三穂より先に眼が覚めたのは初めてだ。目覚ましをこっそり止めて置いた事が功を奏したな。 昨夜は三穂が狸寝入りならぬ狐寝入りをしていたのは知っている。なのに、私の侵入を拒絶しなかった。そして、何故か今日に限って三穂の右手は私の首の下を通り、左手は肩の上を通り、頭を優しく包むように配置されている。 これは、三穂が私に徐々に染まって行っていると考えて良いのだろうか? 嬉しくて、三穂の寝顔を眺めたくなってしまう。三穂を起こさないように布団から顔を出す私。漆黒のショートカットの覆う小さな顔。整った柳眉の下に、気持ち良さそうに閉じられた眼、そして、小さな寝息を吐く艶やかな唇。 駄目だぞ、私。欲望に負けて、三穂から唇を寝取るような信頼を欠く真似をしたら。しかし、ばれない程度にフレンチ程度ならば。そんな欲求が私を支配し始めた時。眠る三穂の腕がゆっくりとしかし力強く動いた。 三穂の柔らかい腕が一連の作業を止めた時、私の顔は三穂の首に触れる位置に、三穂の顎は静かな吐息を私の額に吹き掛けていた。 三穂に抱きすくめられて血流の流れが活発化する私と眠りの中の三穂。これは無意識に私の身体を求めていると……? だ、駄目だぞ!私達はまだ付き合いたてであって、そういうのはまだ早い!まずは二人で映画を見に行ってみたり、小洒落た喫茶店で会話をしてみたり、手を繋いで歩いてみたりとお互いの事をもっと知ってからでないといけない。もし全年齢対応の携帯小説だったら、強制非公開になってしまうような行為はやってはいけないのだ! 私としたことが、三穂の恐るべき無意識の暴挙に、少々思考を乱してしまった。落ち着け、いつものクールな私に戻るんだ。大した事ではないではないか。 目は三穂の艶かな首筋だけに塞がれ、鼻は三穂から香る柔らかな芳香に満たされ、耳は三穂の強い心臓の鼓動となまめかしい寝息の二重奏に支配され、全身は三穂の温かくしなやかな身体に包囲されているだけではないか! これは、ヴァンパイアに対する新たな拷問法か?三穂、なんて恐ろしい精神攻撃を!このままでは私の精神は三分と持たないぞ。
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