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この世には、数字では測れない人智を越えた力がある。
それは霊力、魔力、妖力、神通力、様々に呼ばれるが、先生はそれを力とだけ呼ぶ。思想によって変わるので、呼び方を統一する必要は無いそうです。
そんな先生は、主に五行思想を基に力を行使する。東洋思想で、大地を形成する五つの要素。火、水、木、金、土。そして、天を構成する陰と陽。これらの自然に満ちる七つの根源の気。先生はこの力に働きかけて術を行使する。
人や妖怪にはこの七つの要素に適性と言うものがあるらしい。火行や木行が得意でも、金行や水行が扱いずらい者も居る。種族や性格によって異なるそうだ。そんな適性に関わらず、七つの要素を使いこなせる先生は素直に凄いし、格好良いと思う。
けれど、私はそこまで優秀じゃないのです。だから、先生に渡された鉄の釘がピクリとも動かなくても仕方無いですよね?
「……やはり、三穂には金行は向きませんか。今日の練習はここまでにしておきましょう。良く頑張りましたね」
「いえ、私はもう少し練習します!」
先生の期待に応えたいんです。そんな慰めは入りません。先生のお役に立つために頑張りたいのです。最近、エルの方が先生の役に立ってるような気がするし。私は強くなりたいんです。
「途中で集中力が途切れては出来る物も出来ません。それに、狐は元々、金行や水行と相性が悪い代わりに、火行や木行とは相性が良いですからね?相性の悪い金行や水行は使えなくても三穂はそちらに置いては優秀ですよ」
そう言って私の頭に手を置いてくれる先生。その慰めの幸せと己の未熟さを恥じる罪悪感。喜んで良いのか複雑。
「チッ!グダグダと理屈を並べて。教える側が悪いんじゃないのか?私なら三穂に手取り足取り色々教えてやるのに……」
舌打ちしたいのは私だ!
ここ、流柳稲荷神社境内にある道場。先生は剣道の有段者でもあり、ここで、剣道を教えて居たりする。そして、私と先生二人きりの甘い個人レッスンの場でもあった。畳に寝転がるエルが来るまではね。
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