狐と狸の仁義在る戦い

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「おっ、確か木の精のお姉さんじゃん」 腕相撲見学から、目敏く桜さんを見つける団四郎さん。正確には桜さんは木霊(コダマ)。この千年桜に宿る流柳稲荷神社の一番の古株。淡い桃色の長い髪とピンクの瞳がとても似合う女性です。 「いやぁ、今年もお綺麗で。ところでお姉さん、今度は二人きりでお花見デートしない?」 団四郎さん、お得意の口説きジョークを交えた挨拶。 因みに桜さんは冬から木と共に冬眠し、春になるまで現れない。 「うーん、私、年下にはあまり興味無いんだ?後、九百年経ってから出直して来てね?」 年上女性の余裕です。 「あっちゃあ。それは手痛いことで。仕方ない、デートは諦めるか」 対して気にした様子もなく笑う団四郎さん。その手に持つお猪口にスッと添えられる徳利。 「へぇー、団四郎さんはああいう方がお好みなのですね?そうなのですね?」 とても素晴らしい笑みを見せる秋姉。春を表すように花のように笑う秋姉から、極寒の風が吹き付けて来るのですが……。 「あっ、秋ちゃん?何か怒ってる?」 その寒風をお酌と共に一番に受けているのは、当然、団四郎さんで。 「別に怒ってなんかいませんよ。全然。さぁ、飲んで下さい?」 「えっ、何でお酒に火を灯してるの、いや、飲めないよ、これは。嫌がらせなの?」 「貴方なら大丈夫ですよ?さぁ、グイッと飲んで下さい」 うん、触らぬ神に祟りなし。絶賛不機嫌な秋姉は団四郎さんに任せましょう。 想いを寄せる乙女の前で、知らずとはいえ、別の女性を口説いた然るべき罰です。 先生、団四郎さんみたいになったら駄目ですからね。待っていますから、いつか私に本当の春を下さい。
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