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「かなり不機嫌ですね?」
「ええ、不機嫌ですよ。渡部程じゃないけどね」
学長様々が所用で中座して大分広くなった個室。不器用な笑みを浮かべお酌をする渡部。私はさも不機嫌を装い受けた盃を一気に飲み干す。
二人になればなるだけ気まずくなるんだよね、私達って。
二人で居るとどうしても暗黙のタブーワードが出ちゃいそうだから……。
「春川さん、一つ聞いても良いですか?」
彼も気まずさも持っているのか私から目を反らし自酌を始める。
「貴女はあの鏡でどんな未来を見ましたか?」
「渡部が見たのとおんなじじゃないかなぁ?多分ね」
「そうですか」
渡部はどんな未来を見たのか知らない。でも私の確信を持った嘘にそれだけで引き下がる渡部。静かにお猪口を口元に寄せる。
あ~あ、分かっちゃうんだよなぁ~。どうせ今は隣に居る魅力的な美女は眼中に無いんだよなぁ~。思い出の中の美少女に想いを馳せてんだろなぁ。まぁしょうがないって言っちゃあしょうがないってね。ここはそっとしておいて……
「おい、甲斐性無し。絶世美女と二人きりでだんまりかい!ここは酔いに任せて襲う場面でしょぉ!」
あげる訳が無い!
「それは失礼しました、絶世の美女さん。しかし、そういう発言は慎んだ方が良いですよ」
さらりとした顔になんか、無性に腹が立って来ましたよ。
「生臭坊主が何を言うのかなぁ~?」
「僕は仏教徒では無いので坊主と言う表現は合いませんよ」
「じゃあ、生臭宮司。家に美女を囲みやがって」
「別に侍らせてませんよ。屋根を貸してるだけですよ」
ちびっとこの久しぶりの言い合いが楽しくなってきた。口調や姿が変わっても渡部はショウ君。それは私を下の名で呼ばなくなったとしても変わらない。例え、タマちゃんが居たとしても変わらずに。
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