狐と人間と山と天気雨

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水がガラスの上を走る。その水玉模様の向こうには決して人工的ではない複雑な並木。 そんな並木を眺めていた私。人工的な薄暗いオレンジ色の光に包まれる。その光が外の光景に比べて本当に眩しくて、石の壁が嫌で、やっと窓から顔を離す私。 前を見た。バックミラーには久しぶりに見る先生の眼が映っている。眼が合った気がした。だから、直ぐに窓へ眼を反らした。大嫌いな人の眼を見るぐらいならば、つまらない人工トンネルの内装を見ていた方がまだ良い。 「あっ、そうだ!三穂、飴を持ってきたんだ。要らないか?甘い物は嫌いじゃないだろ?」 私の不機嫌を避けて、助手席に座ったエルの妙に明るい声が車内に響く。私を餌で釣れると思っているその態度も無理に場を和ませようとする態度も、今の私にとっては苛立ちを増長させる元でしかない。 そんなこんなで私に理不尽に睨まれたエルは黙って取り出した飴玉をしゃぶる。 そんな凄く苦しい沈黙に包まれた車がトンネルを抜けると、そこは山国だった。 左手に見えるのは三湖山。三つの湖と三つの川を有し、人間も含め全ての生き物に恩恵を与えし世界一美しい山。そして、右手に見えるのは、そんな素晴らしい山のふもとに相応しくないコンクリートで出来た人間達の巣窟。 懐かしい三湖山の清らかな水の恩恵を受けて広がる綺麗な田園風景と茅葺き屋根の汚い建物。それに対して、三湖山の綺麗な水を汚い蒸気として吐き出す白づくめの綺麗な建物。そして……。 「僕は村役場に行かなければいけませんが、エル達はどうしますか?先に宿に送りましょうか?」 わざと私の名前は出さない先生。汚い人間共の集う場所に行くと言うのならば、私も行く。そんな強い意思をまた合った先生の鏡を通した眼に睨んで伝えた。 そんな私の態度に遂に溜め息を漏らした先生。それが凄く腹立たしい。私、本気で実家に帰りますよ!
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