狐と人間と山と天気雨

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そんなすこぶるご機嫌斜めな私が辿り着いた三湖村役場と書かれた看板を掲げる悪人共のたむろ場。 しかし、賢い善人も集まる事もあるらしい。『山を壊すな!』『リゾート計画反対!』などの段幕の基に集いし善良な人々。鉢巻き装着で悪の住み処に乗り込もうと青い制服を着た悪の手下と正義の為に闘っている人々。その中高年正義のヒーロー達の姿に人間も捨てもんじゃないと切に思う。 しかし、残念ながら世の中、正義が強いとは限らない。この悪の組織はかなり強力な味方を呼んだから。 「そこまで、時間は掛からないと思いますから、ここで待っていて下さい」 ドアを開き、身を乗り出しながら私に待機を命じる悪の味方に成り下がった人物。その甘言に素直に従い座席を倒して寝る体勢になったエル。 一方で私がその言葉を無視して車から降りるとまた私に聞こえる溜め息を漏らす。どんな顔しているか知りたいんですよ、再びこんなふざけた事をやらかそうとしている輩の。 「渡部さん!良くぞ来て下さいました!」 「ご無沙汰しております、桂木村長」 私の味方が押し入ろうと混雑した入り口を何とかすり抜けて案内された村長室。そこに待っていたのは予想外な顔だった。痩せ細り、背が高い先生と比べると背も、物腰まで低い老紳士。とても気弱そうな面持ちで先生の手を取り、不安そうに顔を窺う。珍しくスーツで決め込んだ先生と並ぶとその貧相さが際立つ。 もっと活力溢れる悪代官像を想像していたから、その拍子抜けした姿には気が抜けた。こんな弱々しそうな人が黒幕だったの?この人の良さそうな老人の目元の皺が村内のゴタゴタの苦労に寄っているのが見て分かる。 でも、敵に掛ける情けは無し。村長室の角隅に置かれたテーブル。その上に置かれた模型。
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