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玄関からまっすぐ奥に入った位置にある食券の自動販売機の電気が寂しく光っている。
光一にとって、この薄暗い空間に目を慣らす時間はない。焦る気持ちを抑え、見えずらい空間を足早に歩いていく。
入口付近の右手側はホームセンターなどで売っているようなベニヤの木の壁があり、施設内は見ることができない。光一は壁に貼られた部員募集やお知らせ、近所のスーパーなどのチラシなどを見ることなく、壁の切れ目まで進む。
後十歩ほど歩けば食券の自販機といったところで、右手側の壁がなくなり、光一は側に広がるテーブルと椅子のじゅうたんを目にする。
間もなく、誰もいないテーブルや椅子を通り越した一番奥、微かに入る月明かりによって誰かがいる姿がおぼろげながらに光一の視界に入る。
(いる!きっと千波ちゃんと刈屋だ。大丈夫だよね!?まだ間に合うよね!?)
光一は祈る気持ちで二人がいる付近へと近づいていく。
足早に歩いていく光一。徐々に近づいてくる奥にいる人物。
声をかけたいが、光一にはかける言葉が見当たらない。いや、もしかしたらこう思ったからかもしれない。
声を発した瞬間、二人がくっつきそうに思えたから。そしてまだ二人の唇は接触していないと信じていたから。
その二人との距離も、最初から比べて半分ほどの所までやって来た。
そして光一は足を止めてしまう。
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